「花粉をつけたハチが、メシベに戻ってくれば受粉成功ですけど、これ、リスクがあるんです」
性別を変えるくらいですから、咲き変わりには時間がかかるのでしょう。咲き変わったとしても、ハチが必ず戻ってくるとは限りません。
「でも、不思議なんですよねー」
堀江さんが目を細めて語るには──。
ホウノキの近くに、別のホウノキがあった場合、雄花と雌花に咲き変わる順番は、同じ性別でかぶらないよう、入れ違いになるそうです(雄花・雌花という言葉が正しいかわかりませんが)。
雄花→雌花のパターンで咲くホウノキがあったとして、その近くにある別のホウノキは、必ずといっていいほど雌花→雄花のパターンで咲く。ご近所同士で、おぎないあって、ハチを逃さないよう工夫している。
思わずうなりました。
「あたかも木がコミュニケーションをとっているような」と堀江さんがおっしゃいましたが、まさしくそれです。
仮に雄花を先に咲かせる A パターンと、雌花を先に咲かせる B パターン、両方の遺伝子をホウノキが備えていたとして、どちらを発現させるか決定するものは何なのでしょう。ご近所同士でのタイミングはどのように計られているのでしょうか。
花が発する匂いはどうか。いや、樹木にそれを感知する器官があるとは思えません。
根から変な成分でも出しているのでしょうか。しかしその成分は100メートル先のホウノキに届くのでしょうか。
この謎、正確なところはわかっていないそうです。
人も動物も寝静まった真夜中、古くなりすぎて喋るようになったホウノキが、仲間に呼びかける。
などと想像しながら先へ進みますと、堀江さんは道から外れた森の中を案内してくれました。
そこは動物たちの道でした。

真冬、こんな可愛い痕跡を雪上にてんてんと残していたら、腹をすかせたキツネが黙ってはいません。特徴あるウサギの足跡はごちそうへの道案内となり、若いキツネなどは一心に追いかけるでしょう。
ところがキツネたちは、ウサギの痕跡が煙のように消える事態に遭遇し、戸惑うことになります。
ウサギのトリックにかかっているのです。
ウサギは進行方向に対して、直角に方向を変えるのだそうです。ある程度、横に進むと、今度はきた道わずかに引き返し、ふたたび進行方向へ向かう。
これを繰り返すことで、追跡者を撒いてしまうのだそうです。
これを「ウサギの止め足」というそうで、ずいぶん単純な方法ですが効き目はあります。老練なキツネはそれでも追ってくるそうですが、多くのキツネは途切れた箇所で足跡を見失ってしまいます。
ウサギも馬鹿になりません。人間のいないところで、痕跡だけを使って見えない相手をだますサバイバルをしていたのです。食う方、食われる方、互いに必死になって生まれた高度な駆け引きなのだと思います。

が、思うに、堀江さんの狙いはそれ以外にもあったろうと思います。というのも、トレッキングツアーを終えてうちに帰ってくると、わたしは即座にエビフライを見つけたからです。近くにアカマツがあるといえばあるのですが、「こんなところに」と思わされる場所に落ちていて、リスがひと気のない早朝、マツボックリをかじるイメージが頭に浮かびました。
堀江さんの説明を聞いて、エビフライ眼を身につけていなければおそらく見向きもしなかったに違いありません。
エビフライを知れば、リスやムササビの知られざる行動がわかる、というわけです。

最初に申しました通り、北軽井沢は高原です。にもかかわらず、いかにも高原然とした浅間牧場が見過ごされがちなのは残念なことです。興味のおありの方はいらしてください。わたしもまたトレッキングツアーに参加します。
豊かな自然、といわれるときの、「豊かさ」というのが、堀江さんの説明を聞くとわかるような気がします。
ちなみに、asparaさんではトレッキングツアーだけでなく、ソリをはじめとした雪遊びができます。
左の写真は雪玉を飛ばす道具。はじめて見ました。